服部浩之 | 2017/08/23(水) 16:21
郊外について
2011年を境に、日本の都市の構造や成り立ち、関係性に改めて関心をもつようになった。
僕は2000年前後に大規模再開発が起こっていた東京に暮らしていたことがひとつの原因となって、日本の地方に興味をもつようになり、偶然の助けも得て地方都市に長く暮らすことになった。しかし震災を経験するまでは、東京と地方都市の関係を深く考えたことはあまりなかったように思う。震災以後、様々な理由で地方都市とか地域の暮らしがフォーカスされるようになった。変にポジティブに地方を捉えようとする動きもあると思う。中央集権構造が震災と原発事故を経て、より顕著に見えてきたことの裏返しのように、地方分権や地方の価値が叫ばれることも気になるところだ。
ところで、僕は愛知県の郊外都市で育った。国内でも最も古いニュータウンの一つである高蔵寺ニュータウンにほど近い場所だ。実家はニュータウンからは外れた場所で、幼少時は田畑に囲まれ舗装された道もあまりないのどかな環境だったが、高校生の頃には、周辺はどんどん開発され、建売住宅が増えていき、どこにでもある郊外住宅地の風景へと変貌していった。
取手アートプロジェクトが立ち上げた「あしたの郊外」というウェブサイトの記事(http://ashitanokougai.com/column03/)で、都築響一さんが「日本の1割くらいが都市で、田舎が3割くらい。あとは郊外という感じがします。」と述べているが、まさにその6割に入る郊外の環境で育ったんだなと実感している。このサイトは、なかなか興味深い。僕の実家がある街は、現在も人口が増えており、もしかしたら小山市と少し状況が近いところもあるかもしれない。
郊外に関する文献を調べると、都市論や郊外論の隆盛と社会的な事件の関係が見えてくる。日本で郊外が頻繁に語られるようになったのはバブル崩壊以降のようだが、1995年の阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件、2001年のアメリカ同時多発テロ事件、2011年の東日本大震災など、社会を揺るがす事件が起こる前後に、都市や生活に関する多数の書籍が出版されているようだ。
現在の日本の郊外都市の諸問題は、社会学的アプローチにおいてはアメリカ的な郊外との関連で語られることが多いようだが、実際の都市開発ではイギリスのE.ハワードの「田園都市」や、コルジュジェの「ユルバニスム」の思想に基づいて計画された部分も大きく、そのあたりの変遷も気になるところだ。
そんなことを考えながら、郊外都市に関する文献を収集している。少し、ジャンルや時代で分けてみると下記のようになる。もちろん、これは一部で、リストは今後充実させて行く予定だ。まだ日本語の出版物を眺めている程度なのだが、一般書として出版され検索にヒットしやすいのはこの20年間で書かれた社会学的アプローチの書物群となっている。
【文学・小説】
国木田独歩『郊外』青空文庫(『太陽』に初出、1900年)
前田愛『都市空間の中の文学』筑摩書房、1982年(ちくま学芸文庫より1992年再刊)
【社会学的アプローチ】
吉見俊哉『都市のドラマトゥルギー―東京・盛り場の社会史』弘文堂、1987年(河出文庫、2008年)
小田光雄『〈郊外〉の誕生と死』1997年(論創社、2017年再刊)
若林幹夫『都市のアレゴリー』INAX出版、1999年
宮台真司『まぼろしの郊外―成熟社会を生きる若者たちの行方』朝日新聞社、2000年
若林幹夫『都市の比較社会学―都市はなぜ都市であるのか』岩波書店、2000年
若林幹夫、山田昌弘、内田隆三、三浦展、小田 光雄『「郊外」と現代社会』青弓社、2000年
若林幹夫『都市への/からの視線』青弓社ライブラリー、2003年
三浦展『ファスト風土化する日本―郊外化とその病理』洋泉社、2004年
三浦展『下流社会 新たな階層集団の出現』光文社、2005年
三浦展(編著)『脱ファスト風土宣言―商店街を救え!』洋泉社、2006年
東浩紀、北田暁大『東京から考える 格差・郊外・ナショナリズム』NHKブックス、2007年
若林幹夫『郊外の社会学―現代を生きる形』ちくま新書、2007年
三浦展、上野千鶴子『消費社会から格差社会へ 1980年代からの変容』筑摩書房、2010年
三浦展『東京は郊外から消えていく! 首都圏高齢化・未婚化・空き家地図』光文社新書、2012年
三浦展、藤村龍至、NHKブックス別巻 『現在知vol.1 郊外 その危機と再生』 NHK出版、2013年
三浦展『新東京風景論 箱化する都市、衰退する街』NHK出版、2014年
三浦展『格差固定 下流社会10年後調査から見える実態』光文社、2015年
三浦展『郊外・原発・家族: 万博がプロパガンダした消費社会』勁草書房、2015年
三浦展『東京郊外の生存競争が始まった! 静かな住宅地から仕事と娯楽のある都市へ』光文社、2017年
小田光雄『郊外の果てへの旅/混住社会論』論創社、2017年
吉見俊哉『万博と戦後日本』講談社、2011年
【政治理論】
篠原雅武『公共空間の政治理論』人文書院、2007年
篠原雅武『空間のために 遍在化するスラム的世界のなかで』以文社、2011年
篠原雅武『全―生活論:転形期の公共空間』以文社、2012年
新井智一『大都市圏郊外の新しい政治・行政地理学』日本評論社、2017年
【都市・建築論】
アンリ ルフェーヴル (著)、森本 和夫 (翻訳)『都市への権利』筑摩書房、1969年(ちくま学芸文庫より2011年再刊)
ル・コルビュジェ (著)、樋口清 (翻訳)『ユルバニスム』 (SD選書 15) 鹿島出版会、1967年
ル・コルビュジェ (著)、坂倉準三 (翻訳)『輝く都市』(SD選書 33) 鹿島出版会、1968年(1935年に執筆)
E.ハワード (著)、長素連 (翻訳)『明日の田園都市』(SD選書 28)鹿島出版会、1968年
山口広 (編集)『郊外住宅地の系譜―東京の田園ユートピア』鹿島出版会、1987年
片木篤、角野幸博、藤谷陽悦 (編集)『近代日本の郊外住宅地』鹿島出版会、2000年
角野幸博『郊外の20世紀 : テーマを追い求めた住宅地』学芸出版社、2000年
馬場正尊『「新しい郊外」の家 (RELAX REAL ESTATE LIBRARY)』太田出版、2009年
吉田友彦『郊外の衰退と再生―シュリンキング・シティを展望する』晃洋書房、2010年
山本理顕ほか『地域社会圏モデル ――国家と個人のあいだを構想せよ (建築のちから)』INAX出版、2010年
山本理顕『地域社会圏主義』 LIXIL出版、2013年
久保倫子『東京大都市圏におけるハウジング研究―都心居住と郊外住宅地の衰退』古今書院、2015年
【その他】
岡崎京子『リバーズエッジ』宝島社、1994年
ホンマタカシ『東京郊外 TOKYO SUBURBIA』光琳社出版、1998年
今橋映子『リーディングズ 都市と郊外―比較文化論への通路』NTT出版、2004年
あしたの郊外 http://ashitanokougai.com/